船のお話しです

 小樽へは「新日本海フェリー」
 我が家は神戸の最西端、明石市に隣接する垂水区です。今回利用するフェリーの出港地舞鶴はその昔引き揚げ船の基地として賑わった街でもあり「岸壁の母」の舞台になった港町です。
 この舞鶴港から一日一便小樽まで、新日本海フェリーが就航しています。自宅から舞鶴までは高速道路を使えば1時間50分、一般道で3時間です。随分前から一度利用してみたかったこのフェリーを使って北海道へ向かうことにしました。
 
 新日本海フェリーの北海道便は複数ルートあります。距離的に見て当然ながら選んだのが舞鶴-小樽便です。出航は深夜0時45分ですから、日付としては前日家を出ることになります。 
 
 舞鶴港には何かしら不思議な香りがあり、フェリー埠頭も独特の雰囲気があります。続々集まってくる車も多種多様です。
 参議院選挙の告示とも重なって候補者名を隠した選挙カーなども岸壁に揃い車ウオッチングだけでも退屈することはありません。
 小樽便就航の「はまなす」と「あかしや」は姉妹船でまったく同じ規格です。相互の船は毎日10時過ぎに山形の沖合ですれ違います。時速55kmの高速で航行していますから、すれ違いのセレモニーも一瞬で、相手の船があっという間に見えなくなりますからその早さがわかります。
 両船は、旅客定員:820名 全長: 224.5m 総トン数: 約17,000トン 航海速力: 30.5ノット 車両積載台数: トラック/158台 乗用車/66台で車両甲板はかなりの広さです。

 小樽までの運賃はご覧の通り他のフェリー会社と比較しても経営努力の痕跡が見える設定です。
 愛車「還紅」は4m未満ですから、今回のようにフェリーを多く使うとそれなりにお得です。ただ客室は今回特等A室を利用しました。スイートルームとまではいきませんが長距離フェリーでのバストイレ付きの個室はかなりリラックス出来ます。

 日本海を船で航行して北海道へ・・というのはその昔憧れでした。この航路が就航し始めたのは昭和45とのことで、当事はそんなに早い船足だったという記憶がありません。最新設備の「はまなす」はその気になれば最高32ノットも出るそうです。20時間ほどで北海道に着くのですからただ驚くばかりです。

 船室は、標準的なビジネスホテルのツインルーム並です。昔のような低回転レシプロエンジンとは異なる振動がベッドへ伝わり不定期な共振に慣れるまでに少し時間がかかります。これは船室の位置によってもかなり異なると思われます。
 テレビはCATVシステムで、衛生放送が常時受信できます。時間がたっぷりある船旅は読書、瞑想、入浴、映画・・この時間しかできない格好の時間を心ゆくまで楽しめる貴重なものです。
 船室の狭い浴室より5階の大浴場は快適です。とはいってもそんなに大きくはないのですが、波を見ながら湯につかる気分は最高です。
 船内にはカフェ、レストラン、売店、映画上映、大浴場・・など多くの設備がありますが常時営業というわけではありません。すべて船内放送で案内がありますが異なる時間帯でそれぞれ営業されます。
 常時営業でない理由が分かったのは下船するときでした。さっきまでレストランで配膳し私と談笑していた人が、凛々しい制服姿で現れ下船券のもぎり役で登場してきました。最小の人数で最大の人的効果を得る為であることを理解できました。これが国営の船会社であればそうもいかず、とっくに採算割れを起こすのではないかと感じました。
 
 当然船員の乗船勤務に興味が湧いてきました・・相互の船は毎日3時間程度の着岸時間をとるだけですぐに出航します。船に休みはなくエンジンも休みがないようですが、乗組員の勤務は20日間連続で、その後連続して10日間の休暇が有るそうです。というわけで20日間は全く船から離れず船内で寝泊まりするというわけです。
 ベテランの船員の方は「若い頃はデートもままならずかなり辛かったが、最近ではまとまった時間が取れるのでかえって歓迎している・・」とのお話しでした。

 船内の食事はすべて事前予約をしました。九州より長い船旅ですからそれも悪くないと考えたからです。予約のレストランは5階の専用スペースです。800人以上乗れる船客ですからもっと人が多いのかと思ったのですが意外や意外・・まるで貸し切り状態でした。
 目が覚めて軽い朝食をはさみ迎える昼食は、ビール・ワインを充分に楽しめますが、ディナーの時間はその2時間後それぞれの港につくのでアルコールの摂取は禁物です。
 そんなわけでこの船ではメインディッシュは昼食であり、ディナーはこれに付随したようなものです。次回は少し考慮しましょう・・・。
 
 「はまなす」と「あかしや」の両船は毎日10時15分頃、山形沖ですれ違います。今回は行きは「あかしや」、帰りは「はまなす」との出会いがあり、カメラをもって待機しました。行きはよいよいでしたが、帰りは小雨・・一瞬にしてしぶきか雨かわからない水滴でぼんやりとした写真にしか撮れませんでした。この写真は小樽行きの船中から「あかしや」を迎えたものですが、相互の船が交わす長ーい汽笛の交換が船旅のムードを一層高めます。
 珍しさも手伝って船内の写真も多くありますが、おおまかながら初乗船の新日本海フェリーを少しおわかりいただけましたか?

 これまで経験した長距離の船旅は神戸から沖縄や、九州へのフェリーなどでしたが、この新日本海フェリーは、良くできた快適な船体と最小人数の乗組員という構成にもかかわらず実にうまいシステムで運行されているようです。
 舞鶴、小樽間1,061qを約20時間結ぶこの快適な航路がずっとずっと続きますようにそんな思いを込め、この航路を今後も応援したいと思います。


離島への足「東日本海フェリー」
 最北の町、稚内はサハリン、礼文、利尻の島に渡る港町です。新日本海フェリーを下船して真っ先に向かったのが稚内港です。
 ここで事前に予約をしていた東日本海フェリーの礼文島行きの船に乗ります。この会社は他にも奥尻島航路を持つ離島専門の会社でもあります。稚内出航が07:30、礼文島香深港に着くのが09:25ですから1時間55分の船旅です。

 礼文島行きの「クイーン宗谷」は、全長100m足らず、3500トンですが旅客定員500名、トラックだけなら21台。乗用車だけの場合56台の積載能力があります。車より乗客優先のフェリーです。

 車より人優先という意味は写真でも分かります。見てください・・とフェリーからバスが下りてくるように見えますが、実はバスがフェリーに乗り込んでいるのです。このフェリーへ乗船するとき前を向いて乗れるのは乗客だけです。車両はすべてバックですから、車は大小にかかわらず入り口でUターンして後ろ向けに車両甲板に入ります。そんなに広い甲板ではなく不慣れな運転者がいれば相当苦労するはずで、初心者向きではありません。
 そう言えば稚内で出あった人が、車をおいて礼文に行くと話していたことを思いだしました。乗客と比べて圧倒的に車の乗車率が少ないフェリーなのは、運賃の高さもその理由だと思われます。
 稚内から礼文島・香深まで14820円、礼文から利尻島へ4940円、利尻島から稚内に戻るには13030円ですから離島に車を運ぶのは安くないということです。それに1等ラウンジの指定席代が加算されますから船の旅ほど料金と正比例する乗り物はないということでしょうか・・。
 余談ですが函館・青森の幹線フェリーに東日本フェリーという会社がありますが、ここは室蘭、新潟・九州を結ぶ長距離フェリーを持っていますが「海」ひとつで別会社です。
 それにしても礼文島と利尻島が異国のように違う島だとは思ってもいませんでした。遜色ないどちらの島へもこのフェリーから物語は始まります。

知床半島の遊覧船
 観光客が知床半島の先端に立つことは例外を除いて難しいといえます。一番便利なのが観光船に乗って半島の突端を海側から見ることです。観光船は羅臼の町からも出ていますが、オシンコシンの滝を過ぎたあたりで宇登呂に差しかかります。
 ここが遊覧船の発着場です。この日時間的に運良く半島半周の観光船オーロラ号に乗ることが出来ました。
 船は修学旅行生で一杯・・栃木の中学生と船上で話をしたり遊覧船ならではのリラックスした時間でした。
 天候はそれまで朝方は11度と、相当の寒さでしたがこの日はようやく晴れ間が出て快適な日になりました。ただ、海の上ですから夏の関西からは想像できないくらい冷たい風に吹かれましたが、知床半島の神秘な入り江や海岸線に目を凝らしました。

 今回陸路は3500kmほど走りましたが、その合間に利用したフェリーや観光船は2300kmくらいです。陸と海と・・何といってもふところの深い北海道をくまなく歩くには時間がかかりますが、どこに行っても旅のアクセントとしては欠かせない思い出を見事に演出してくれます。
 
 今回は計画をしたようで結果的には行き当たりばったりの旅になってしまいましたが、旅の女神はすべて私たちを応援してくれました。
 天気、時間、人・・無駄のない偶然を何度も与えてくれました。
 
 出会いにときめきながら、それぞれに趣の違う町と歴史に触れ・・地元の資料館なにも出むき、その町の成り立ちなどをすこしづつ勉強しながら北海道の旅が続きました。

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