卒業試験は喫茶店「アーティチョーク」

導犬は国家公安委員会の認めるもので、道路交通法では白杖と同じです。ですからハーネスをつけた盲導犬が、使用者と歩いているのを見つけた運転手は、必ず安全確認をする義務があります。

電車、バス、タクシーにも乗ることが出来ますし、レストランなどの飲食店や旅館、ホテルには、厚生省通達により自由に出入りすることが出来ます。

在日本には、およそ八〇〇頭の盲導犬が活躍しています。そのうちの十三頭は、タンデム犬ですから、使用者はもう少し多いことになります。盲導犬がまだ一般的でなかった頃、前もって駅長に申し出て許可をとり、車内では口論をしたこともあったそうです。

今では盲導犬は、吠えない、噛まないと言うことが認められるようになりました。それには多くの先人達の努力もさることながら、盲導犬そのものの魅力も大きかったと思います。

は、便座でおしりを暖めながらラジオを聞いています。モネは、ドアの外でウエイトしています。揺れる神戸を歩くのだから、卒業実技試験ぐらいで舞い上がるわけにはいきません。

「よし 行くか」。「モネ ピッカーブー グッドウエイト」。ドアの外に顔を出して私はニッコリ、モネはしっぽフリフリしっぽボンボン。下重所長の運転する車の中で多和田訓練部長が、アーティーチョークと言う喫茶店を探して行けとのこと、何とか通りのどこそこにあるんだそうですが、京都の地名は何度聞いても覚えられません。

車は京阪桂駅につきました。さあここからです。「聞きまくって行くことにするか、モネ」。切符売場でも改札口でもホームでも、車内でも援助依頼です。皆さん親切です。モネの魅力です。目的の駅前です。モネが放置自転車を迂回
した時に、私は方角をまちがえました。「ブブー」、「車道です」、多和田さんです。おやおやこれはいけません。

アーティーチョークのアイスコーヒーは、冷たくて甘くてほろにがくて、おいしくいただきました。ほっとして足元を見ると、モネがダウンしています。「モネさん これで神戸に帰れるよ」。

導犬は、使用者にとって信頼にたるべき存在であるとともに、盲導犬に接する多くの人々の心を不思議なくらいなごませます。そして盲導犬も、多くの人々との出会いが大好きなようです。 

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