○○学校

初代キャンカー「ラ・クーン」との出会い

テレビニュース


 私の出勤時間は少し不規則です。朝9時過ぎ頃が平均ですが、出社前に夜の間に届いたメールに返事をしたり、そのまま原稿をまとめたりするとつい出遅れてしまいます。かといって寝坊かというとそうではありません。早ければこの作業は朝5時頃から始まる訳ですから結構長時間労働に就いているのではないかと思っています。

 朝一番パソコンのスイッチを入れ、同時にテレビニュースが背後から語りかけてきます。気になるニュースには振り返りますが、それ以外はパソコン脇のバックミラーに目をやる程度です。
 あまりテレビに釘付けにならないのは、私がラジオを生業にしているからだけではなく、何より両手が使えるラジオが大好きだからです。

 その日がいつか忘れましたが、「NHKおはようにっぽん」の特集だったと思います。小さなキャンピングカーが人気だとの話題が流れたとき思わずキーボードから手を離し、身体ごとテレビと向かい合っていました。
 私より少し先輩の世代でしょうか、小さなキャンピングカーを駆使しながら夫婦連れでうまく人生を謳歌している映像に思わず拍手を贈りました。

 これはすごい!最小公倍数的な発想で狭い日本をそのサイズに合わせ、コンパクトなボディで、しかも控えめに走る・・これはまったくすごいことだ!!!
 その時、私自身がそれまで考えていた日本列島桜前線を旅する計画が、ハード面だけでもこんなに違うことにすごい驚きと興味を覚えました。ただこの日は忙しさにかまげて頭からこの話題が消えていました。
 
 大きいこと小さいこと


 その昔、思いを抱いていたキャンピングカーは、俗に言うバスコンをイメージしていたように思います。大きければ幾らでも良いという思いは、大きな車に対してあこがれがあったからです。

 学生時代、どうせ免許をとるなら陸上を走る乗り物すべてが乗れるようにしたい・そんな思いがあり、そして乗るなら大きい車が良いと信じこんでいました。免許を取るならそれに見合ったものでありたいと思い色々挑戦しました。

 今から40年少し前のことですが、その頃大型自動車の免許を得るには普通免許を取得して2年以上の運転経歴を示さねばなりませんでした。大学生の私にとって年齢条件を満たしているものの最も苦労した課題でした。
 当然のことながら大型特殊自動車や大型自動2輪なども加え、職業運転手を選ばないならほとんど用が足りるようになりました。

 同世代では少なかった大型や大型特殊免許を持つことは密かな誇りでもあり、趣味ながら大型車を運転することは楽しい事でした。
 そんな理由で、小さな家を転がすキャンピングカーが小さいはずはなく、大きくなければ意味がないと当然のことのように思っていたわけです。
 
 
 検索


 そんな固定概念がそのまま残っていたある朝、日本に世界で一番小さいキャンピングカーがある。そんなNHKのニュースに触れたのですから、興味が湧くのは当然のことでした。ただ、小さい事だけが魅力の車紹介なら単にこの段階でこの物語は終わっていたのではないかと思います。
 その後しばらくして時間の余裕が出来たとき、このニュースにあった車をインターネット検索にかけたのは言うまでもありません。

 ネット検索で最初にたどり着いたのは、総合商社のようなディーラーのページで、こんなに多くキャンピングカーの種類があるのかと感心しました。
 さらに小さい車を条件に見つけたのが、鹿児島にあるバンショップミカミという会社でした。
 なんでも「テントむし」という小型タイプのメーカーで、写真で見る印象は実に可愛いく、まるでおとぎ話に登場してくるような、おもちゃのような車にビックリしました。

 どこから見てもへー・・と感心するばかりの出来映えで、集合住宅住まいの私にとって高さ制限のあるガレージに難なく出入りできる実用性が魅力でした。
 しかも軽四の税制面の恩恵をそのまま利用できることは、ガソリン高騰など経済性が重要視される現在ますますユーザーの興味をそそると思いました。
 早速ミカミさんにメールを出し丁寧なメールや資料をお送りいただいたのは言うまでもありません。納期を聞いたところ例のNHKニュースで注文が殺到し、年内の納車は無理だとのことでした。

 テレビの威力は相変わらずすごいもので、私のラジオ番組で幾ら呼びかけてもそうは行かない現実を改めて悟ることになりました。
 そして次に知ったのが「ラ・クーン」という小型キャンピングーの存在でした。これが先日NHKニュースで出会った印象的なスタイルと一致しました。大げさですが大切な人と運命的な出会いをしたような親しみを覚えました。
 
 
 ラ・クーン


 思いをすべてお話しすることはできませんが、ラ・クーンは私にとって衝撃的な車でした。デザイン的なものだけではなく、ちょっと生意気で育ち盛りの少年のような可愛いイメージがあります。
 それでいてどこか育ちの良さを感じる愛くるしいデザインです。ラ・クーンが走る先に、このわんぱく少年が成長していく未来があり、そして夢を乗せる事が出来そうな印象を与えてくれます。
 
 先日家内が中仙道62番目の宿、醒ヶ井に行こうと言いだし、思い立って名神高速道を一気に走り米原まで向かいました。
 湧き水と清流の宿はまさに旧街道が培った文化そのもので、街道沿いの丹精な町並みは日本人なら郷愁をそそる素晴らしいものでした。
 
 狭い旧街道は住民の生活道路になっており車両乗り入れは原則禁止です。おそらく過去には観光客が乗り入れる車両に困惑した時期があるのでしょう。
 そう言えば家内の実家も京都の旧街道沿いにあり、今はその前に国道バイパスが通っています。
 旧街道沿いの街を歩くと、長い人の営みと歴史が今も自然に伝わってきます。ここが人々の生活の原点であり、狭い街道から始まった日本の歴史を感じます。
 その時、そうだ!このサイズの生き方もあるんだ・・これも悪くないな!そんな思いを抱きました。

 この車ラ・クーンの生みの親オートショップアズマという会社は埼玉にあます。早速ネットから資料を請求しました。あれこれ眺めていると資料が届く前にもっと知りたいことが湧きだし電話をしてしまいました。
 ショールームの女性とお話しをして、資料に加えさっそく見積もりをお願いしましたがそれでも、さらに知りたいことがあり、現物を見るため直接訪ねることにしました。

 幸い月の内10日ばかり東京にいる機会があるので足を伸ばす事は苦痛ではありません。訪問までの間もオートショップアズマさんのホームページや、ラ・クーンユーザーみなさんのページを何度も拝見しながら多くの勉強をさせていただきました。
 これらの情報はまるでラ・クーンの教科書を手に入れたような思いでした。
 
 インターネット社会の長所を上手く利用したユーザーの意見が、これだけ活かされしかも参考書を共有しているような車は私にとって珍しく、何と言ってもユーザーそれぞれが実に個性的で、その書き込みから伝わってくる人柄に興味を覚えます。
 
 
 お見合い

 そしてオートショップアズマの訪問日を迎えました。都内から1時間足らずで東武線新越谷に着きます。
 面倒をお掛けするより駅からタクシーで・・とばかりに乗り込みましたが、教えられた通りの道順を伝えたのですが、ドライバーには上手く伝わらず、本当に地元の運転手かと思うほど不安な道のりでした。
 きょろきょろしながら辺りに目を凝らしアズマさんのショールームを見つけたのは客の私が先でした。

 シュールームでとにかく実車を見学し色々な疑問をぶつけました。恐らく同じ質問に何度も根気よく答えたはずですが、丁寧に応対して頂いた次期社長?の親切な対応にラ・クーンの心が伝わるような印象でした。
 自慢することなくユーザーの数だけ仕様があるという感触を与えてくれる印象は何ものにも代え難く、ひょっとするとラ・クーンという車の個性は、この工場やスタッフはもちろん取り巻きとも言えるユーザーが暗黙の諒解で作りあげたきたのではないかと感じました。
 私もラ・クーン親衛隊に入ろう・・・!
 
 武者震い

 その後、より具体的な見積もりはFAXで頂きました。お願いする度に、金額と車重が正比例する不気味さも感動的です。
 より気になったことは発注した内容を積算するとこれで本当に走るのか、という思いは、重い・・という漢字と重なってくるようでした。
 ただ、人生は重荷を背負って歩くものだと言う徳川家康が残した教訓を思い起こすと、今回の新しいスタートに際し神様が私に与えてくれた「重荷」という新たな試練のような気がしました。

 先日3回目の訪問を済ませ、より具体的な打ち合わせをした結果、納車は晩秋の頃になりそうです。訪れたとき工場には間もなく納車されるというグリーンのラ・クーンがちょっと威張ったように最後の内装作業中でした。
 ラ・クーンユーザーの情報を垣間見ると、ユーザーの数だけ車種があると思わせるだけでなく、個性的なキャンピングカーに魅力を感じている集団であることが良く分かります。なんだか「ラ・クーン」という教祖様を囲んでいる信者の様な感じです。

 そして今改めて思うことは、この車を育てることはある意味少しばかり覚悟が必要ではないかと感じます。私自身に当てはめれば還暦という赤ちゃんに戻る来年、再び子育てを開始するような武者震のようなときめきです。
 ラ・クーンの仲間として相応しいか自信はありませんが、世の中一人ではできない事ばかりです。恐る恐るみなさんにご挨拶できる日を楽しみにしています。

 還暦という事実を謙虚に喜びながら、自分自身へのご褒美を心ゆくまで楽しみ、おとなの真のおもちゃともいえるクルマを楽しむことができればこれ以上の喜びはないと思っています。
 そんな思いをこめてこの車を「還紅」と名付けました。新しいスタートラインに立つ喜びを感じ、想像を巡らし続けた思いを忘れずに改めて日本を歩きを始める決心をさせてくれた出会いに感謝しています。

 世界最小クラスながら、そこから生まれる個性や未来は世界最高であるという喜びを実証できればより最高に嬉しいことです。心の中では大げさに還紅が走り出す日を喜びたいと思っています。